曲突徙薪(きょくとつししん)第9号
一般的なタスク
汎用の生成AIによって対応可能な一般的なタスクでの活用です。具体的にいうと、社員個人の事務作業をサポートする役割となります。この用途であれば、結果の完全性・正確性の問題については、ユーザーによるチェックを介することによって、トラブルに繋がるようなリスクを十分に抑えることができます。具体的には、たとえば以下のような用途が考えられます。
- LLM(大規模言語モデル)による文書の校正・要約・翻訳
顧客向けのあいさつメールや、社内通達の紹介文など、本部、営業店を問わず、金融機関内部には多くの文章作成・校正の事務が存在します。議事録作成や英文和訳も、LLMであれば編集時間を大幅に削減できることでしょう。このほかにもたとえば、5年分の有価証券報告書のテキストデータを読み込んで、その会社の経営状況を要約するようなタスクも、LLMであれば一瞬で完結します。
- LLMによるプログラミングのサポート
LLMはコンピュータープログラムの言語が得意です。プログラムが書けない人でも、コンピューター上で実行したい内容を自然言語で書けば、LLMはこれを任意のコンピューター言語に変換してくれます。
- 資料・パンフレットの作成
LLMによる文章生成能力は、社内文書のほか、顧客向けの説明資料や、商品パンフレットの作成に大いに活用できますが、生成AIの対象は、文章による出力に限りません。画像生成AIを使えば、資料の挿し絵やパンフレットのデザイン、Webサイトのレイアウトなども、専門家の力を借りずとも担当者によって美しく仕上げることができます。
専門性が必要なタスク
汎用的な生成AIに対して、開発者の意図に沿った回答を生成できるようなファインチューニングをおこなうことで、生成AIはより専門的な知識を必要とするタスクを実行できるようになります。以下では、ファインチューニングを受けた生成AIによって実現するタスクとして「情報の整理」と「意思決定のサポート」を取り上げます。
トランスフォーマーが実現する機能の一つとして、膨大な量の学習用データの特徴を、ニューラルネットワークの形で再整理するというものがあります。この機能を用いて、いままでは情報量が多過ぎて解釈しきれなかったようなデータの特徴も、人間に見える形で整理できるようになります。また整理された情報は、LLMをインターフェースとして、さらにわかりやすい自然言語の形でユーザーに提供されます。このようなタスクをここでは「情報の整理」と区分します。具体的な業務としては、社内規程に関するヘルプデスク、専門家への相談を代替するチャットボット、社内文書の作成などが挙げられます。
情報の整理による活用をさらに一歩進めると、生成AIに対して、整理した情報のみならず一定の「判断」を求めることも可能です。ここではこの用途を「意思決定」と呼びます。具体的な業務としては、貸出審査や市場運用業務、人事評価などが挙げられます。
意思決定に使う際のポイントは、専門性に加えて、一定の正確性と結果の一貫性が必要になるところでしょう。ここでいう結果の一貫性とは、同じような入力に対して同じ結果を返す性質のことで、生成AIはこれがあまり得意ではありません。またAIには責任という概念がありません。組織としての最終的な意思決定に使用するためには、人間が何らかの形で介在し、生成AIの正確性や一貫性の足りない点をフォローするとともに、結果に対する責任の所在を明確にする必要があります。
専門性と正確性が必要なタスク
生成AIによるアウトプットを通じて顧客とダイレクトにやり取りする顧客対応業務には、専門性に加えて、出力結果におけるより高い正確性・完全性が求められます。これは、万が一アウトプットが間違っていた場合の影響が、社内に限定されず、外部に直接的に及ぶからにほかなりません。
各金融機関におけるリリースの中には、将来的に顧客対応業務における生成AIの活用を目指すところがいくつか見られますが、現時点では、技術的なハードルがそれなりに高いと考えたほうがよいでしょう。今後、開発技術が進歩するなかで、顧客対応業務への生成AIの活用は、セールストークや単純な情報提供のように、応答の正確性への要求レベルが比較的緩いと考えられるアウトバウンドの分野から進むものと考えられます。
これに対して、コールセンターやチャットボットのように、顧客から幅広い情報を受け付ける可能性のあるインバウンドチャネルにて、生成AIがダイレクトに顧客との矢面に立つ活用には、さらに高い応答の正確性が求められます。ファインチューニングやプロンプト・エンジニアリングの技術が相当に熟練した段階で、ようやく活用が進むものと思われます。
今回まで3回にわたって生成AIについて集中的に取り上げましたが、いずれあらためて、生成AIの金融機関実務での活用に関するドキュメントをとりまとめて提供する予定です。
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