曲突徙薪(きょくとつししん)第4号

2023年4月15日発行

 厚生労働省がマスクの着用ルールを変更して1か月が経ちました。それまで屋内での着用を推奨していたマスクを、3月13日以降は「個人の主体的な選択を尊重」し、個人にて判断することとなりました。電車の中などで周囲を見渡すと、まだまだマスクをつけている人が8割方を占めているようですが、マスクのない日常がまた一歩近づいてきました。

 事業者は、こうした人々の気持ちの変化を敏感に感じ取っています。4月10日に公表された景気ウォッチャー調査を見ると、マスク着用の緩和を好感するコメントがずらりと並んでおり、内需関連を中心に先行きへの期待が大きくふくらんでいます。病は気からといいますが、景気も気からです。米国景気の変調や地政学リスク、物価高など、世界に目を向けると景気に対してネガティブな要素も多いのですが、遅れてきた日本のコロナ禍からのリ・オープン、私は少なくとも国内中小事業者の先行きについては、それほど悲観はしていません。

 というなかでの3月の倒産急増のニュース。危機は優勝劣敗を加速するのでしょうか。

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今月のもくじ

・中小事業者のデフォルト状況(〜2023年3月)

・気になるアイツ 〜ネット銀行〜

・あとがき 〜信用リスクの分水嶺〜

中小事業者のデフォルト状況(〜2023年3月)

 東京商工リサーチ(TSR)は、4月10日に3月の倒産件数を公表しました。倒産件数は809件(前年同月比+36.4%)となりました。直近12か月の累計は6,880件となり、こちらは12か月連続の増加です。コロナ禍前の年8,000件超の水準とはまだ開きがありますが、倒産件数は徐々に増加ペースを強めています。倒産企業の負債総額は1,474億円で、4か月ぶりに1,000億円の大台を超えましたが、100億円以上の起業の倒産は1件(昨年3月は3件)にとどまり、足元の倒産の大半が信用力に劣る中小・零細企業によるものという近年のトレンドに変わりはありません。

図表1 倒産件数の推移(2018年1月〜2023年3月)
(出所:東京商工リサーチWebサイトより筆者作成)

 単月の倒産件数が800件を超えるのは、コロナ禍前の2019年7月以来で、3月としては2015年3月(859件)以来のことです。日銀短観や景気ウォッチャー調査の結果からもわかるとおり、内需を取り巻く環境は決して悪くないなかでの倒産の増加は、やはり中小事業者のなかでも、ようやくコロナ禍明けの回復メリットを享受できる勝ち組と、その前に力尽きる負け組との明暗が広がった結果と言えそうです。今回の倒産件数は、3月という多くの企業が決算期末を迎える節目における結果であり、今後のトレンドを見通す上で深い意味合いを持っています。倒産件数は、これからしばらく強い数値が続くものとして、身構えておきたいと思います。

 全国信用保証協会連合会は、2月末までの保証承諾や代位弁済にかかる数値を公表しています。2月の新規保証承諾金額は7,269億円(前年同月比+34.1%)となりました。2月としては2015年以来の7,000億円超えとなり、協保付き融資がかなり活発に活用されている様子がわかります。コロナ禍以前の金融機関には、保証付きよりもプロパー融資を活用し、多少の信用リスクは目をつぶって利ざやの確保を優先する融資姿勢が多く見られましたが、足元ではこの動きに変化があらわれているようです。

図表2 代位弁済率(推定値)と新規保証承諾金額(2018年1月〜2023年2月)
(出所:全国信用保証協会連合会Webサイトより筆者作成)

 保証承諾件数と代位弁済件数から推定した2月の代位弁済率は0.78%で、こちらは18か月連続の上昇となりました。水準としては2020年10月に並びましたが、コロナ禍前の1.1%程度とはまだ開きがあります。3月の倒産件数が急増したこともあり、来月の代位弁済の数値は、信用リスクの今後を見通す上で大きな分岐点になりそうです。

図表3 米国Chapter11申請件数(2018年1月〜2023年3月)
(出所:American Bankruptcy Institute Webサイトより筆者作成)

 米国ではABI(American Bankruptcy Institute)が、調査会社Epiq Bankruptcy社の調査結果をもとに、3月の倒産件数を速報しています。日本の破産に相当する破産法11条(Chapter11)の適用件数は548件(前年同月比+79.1%)となりました。直近12か月間の累積は4,339件で、こちらは11か月連続の増加です。米国でも倒産件数は、コロナ禍前の平均である約5,800件を大きく下回っていますが、直近では高い伸び率が続いています。単月で500件を超えたのは2020年11月以来のことで、これがSVB(Silicon Valley Bank)の経営破綻に端を発する金融不安のあらわれなのか、来月以降の水準に対してこちらも国内同様に身構える必要がありそうです。