曲突徙薪(きょくとつししん)第3号

気になるアイツ 〜あらためて賃上げについて考える〜

 最近、毎日のように目にするのが「賃上げ」に関するニュースです。賃上げに反対する人は、少なくとも賃金を受け取る労働者側にはいないはずで、メディアも読者も大歓迎なのですが、そもそも賃上げとは何を指すのでしょうか?

ちん-あげ【賃上げ】
賃金を上げること。「平均5パーセント賃上げする」 [類語]ベースアップ
(出所:小学館「デジタル大辞泉」)

 当たり前のことしか書いていないように見えますが、ここから大事なことが2つわかります。一つは、賃上げの主語は「使用者(企業)」だということです。逆に言うと、労働者にとって賃上げは受け身のイベントで、その意味では「賃上がり」のほうが正確なのかもしれません。そしてもう一つは、類語に「ベースアップ」とあるとおり、賃金の上昇は労働の内容や量と関係なく、無条件に起きることが前提になっていることです。新しい仕事を覚えたから、去年よりもたくさん契約をもらったから上がるような賃金は、成果に対する報酬アップであって、無条件の賃上げとは異なります。

 賃上げは、賃金を支払う側の企業にとってはコストアップ要因です。上げた賃金に見合うだけ売上が増えなければ、あるいは他の費用が減らなければ、会社の取り分、つまり利益が減ることになります。

図表4 売上も他の費用も変わらなければ、賃金が増えた分だけ利益が減る

 会社にとって利益は、株主の取り分となるだけでなく、成長のための原資であり、危機に備えた蓄えにもなります。一度限りの賃上げで一時的に利益が減ることぐらいは許容できるかもしれませんが、度重なる賃上げによって、利益が目減りしていくのを黙って見ているわけにはいきません。そこで、持続的な賃上げのためには、売上を増やすか、費用を減らすか、あるいはその両方によって賃上げの原資を確保する必要があります。

図表5 利益を変えずに賃金を増やすには、売上を増やすか費用を減らすかが必要