曲突徙薪(きょくとつししん)第3号

2023年3月15日発行

 創刊号でとりあげたチャットGPTが、またたく間に世界を席巻しています。

 Microsoftの検索エンジンBingは、OpenAI(チャットGPTの開発元)の技術を発展させた最新アルゴリズムPrometheusを搭載したチャットボットを、2月上旬にリリースしました。Bingは検索エンジンのシェアにおいて、長らくGoogleの後塵を拝してきましたが、Prometheusのリリース後わずか1か月足らずで、1日のアクティブユーザー数を7500万人から1億人超まで増やしました。10億人とも言われるGoogleには遠く及びませんが、巻き返しの第一歩としてはこれまでに無い勢いです。チャットGPTが2021年までの情報しか持ち得なかったのとは異なり、Prometheusはインターネット上の最新情報をもとに、更に強化されたアルゴリズムによって答えを返します。また、国内最大シェアのメッセージングサービスLINEも、今月に入ってOpenAIの技術を使ったチャットボットサービスを、LINEアプリとしてリリースしています。

 誰もが手軽に「ググる」感覚でAIチャットの知恵を借りられる時代が、あっという間にやってきました。こうなると私たちアナリストも、生半可な記事では「チャットGPTに聞けばわかる」ということで、いずれ見向きもされなくなることでしょう。今後の調査レポートの類には、事実をもとにした客観的かつ合理的な考察や、読み手にとってわかりやすい情報の整理など、単なる事実の羅列を超えた付加価値がこれまで以上に求められます。曲突徙薪は、AIに負けない情報整理と、AIにできない考察によって、むしろAIに学習される側の記事となることを目指します!

(PDF版はこちらです)

今月のもくじ

・中小事業者のデフォルト状況(〜2023年2月)

・気になるアイツ 〜あらためて賃上げについて考える〜

・あとがき 〜相棒との対面〜

中小事業者のデフォルト状況(〜2023年2月)

 東京商工リサーチ(TSR)が3月8日に2月の倒産件数を公表しています。倒産件数は577件(前年同月比+25.7%)となりました。直近12か月の平均は555件で、こちらは11か月連続の増加です。コロナ禍前の平均は700件程度ですから、依然として倒産は平時よりも大きく抑止された状態が続いています。また2月の倒産企業の負債総額は966億円で、1,000億円をわずかに下回る水準となりました。負債10億円以上の倒産が16件など、同社の分析では中堅規模の企業の倒産が徐々に増えているようです。とはいえ2月の倒産も先月同様、すべて中小企業基本法上の中小企業とのことで、信用力に劣る中小・零細企業にて少しずつ倒産が増えているという近年のトレンドに、特に変わりはないようです。

図表1 倒産件数の推移(出所:東京商工リサーチWebサイトより筆者作成)

 同社の公表値には「新型コロナウイルス」関連倒産というカテゴリがあり、こちらが2月は228件で前年同月比1.6倍に「急増」と報じられています。ただ、同社Webサイトによると、このカテゴリは「担当弁護士、当事者から要因の言質が取れたものなどを集計」したものとされており、公表されている内容だけで判断する限り、客観的・定量的な定義に基づく指標として用いるには注意が必要と思われます。コロナ禍は2020年以降の経済活動のすべてに影響しており、むしろコロナ禍と関連の無い事業者など、およそ考えられません。前述の通り足元の倒産動向は、まだまだコロナ前の平時をゆるやかに取り戻す途上にあり、急激な変化を懸念するような状況にはまったくありません。

 一方で「コロナ」の冠のついた数値は、いまなお、ニュースにおいてそれなりのインパクトをもって社会的に受け取られます。このように、客観性・定量性に一定の注意を要する指標であっても「事業者向けのコロナ対策が不足している」などという言論に利用されかねないところには、メディアのデータリテラシーという観点で、いくばくかの危うさを覚えます。