曲突徙薪(きょくとつししん)創刊号

あとがき

 曲突徙薪(きょくとつししん)

 本Webマガジンのタイトルです。これは中国のことわざで、曲突とは煙突を曲げること、徙薪とは薪を移すことです。いずれも火事に対する備えをあらわし、転じて「災いを未然に防ぐこと」の意味で用いられます。ただ、このフレーズの本質は、原典の「漢書」にある次のエピソードにあります。もともとこの言葉は、漢の宣帝の家臣であった徐福が、皇后とその一族に謀反の疑いがあることを日頃から宣帝に忠告していながら聞き入れてもらえず、実際に謀反が起きると、謀反を鎮圧した他の家臣たちが恩賞を受ける一方で、事前にこれを警告していた徐福にはなんの沙汰もなかったという故事に由来しています。

 リスク管理担当者の仕事とは、まさに「曲突徙薪」を提言し、これを実現することにあります。あるいは企画や戦略を担う担当者にも、前向きなジャンプばかりではなく、時にはしゃがんで耐える施策を訴えなければならない場面が少なからずあるはずです。ところがこれは徐福の故事のとおり、必ずしも報われることばかりではありません。

 リスクをリスクとして、危険を危険として率直に受け止めることは、実は簡単なことではありません。徐福の故事を引き合いに出すまでもなく、誰もが気づいているリスクを放置した結果が大きな失敗につながった事例は、日本の太平洋戦争を代表例として枚挙に暇がありません。拙著のエピローグでも引用させていただいたこの言葉の裏側には、事実を事実として正しく伝えることがよりよい未来を切り開くという、言論が秘めたる強い可能性を感じています。タイトルに負けないように、内容の充実に精一杯努めていきます。

 次回「曲突徙薪」は、2月15日(水)の更新予定です。

(Photo by Emmanuel Appiah at Unsplash

曲突徙薪(きょくとつししん) 創刊号
発行日:2023年1月26日
発行者:リボーン合同会社 代表社員 尾藤 剛

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